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2008年06月04日

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本書は、忙しい営業マンが日常的に情報収集を行うための「実用的なノウハウ」をできるだけ分かりやすくお伝えすることを狙いとして執筆しました。 (「はじめに」より)

リサーチ・マインド

「はじめに」で、10数年にわたって平均の3倍近い成績を上げ続けている自動車のセールスパーソンのエピソードが出てきます。著者が指摘する彼の成功要因は、「情報収集」。彼は「外回り」という仕事の目的を、販売だけではなく、顧客情報の収集にも据えている。その蓄積が、高い成果につながっているというのです。

顧客接点をすべて情報収集の機会と捉えれば、タイトルの「営業はリサーチが9割」もあながち誇張ではないと思えてきます。セールスパーソンとしての成功は、まずはそういった「リサーチ・マインド」とでも呼ぶべき姿勢を持てるかどうかに依存していそうですね。

同時に、仕事の基礎体力づくりに相当する、日々の情報収集があります。我々が手にすることのできる情報は膨大で、これをどうさばくかは現代社会人に共通する悩みでしょう。本書では、マーケティングのプロフェッショナルである著者が、セールスパーソンに必要な情報の収集・管理・解釈といった「リサーチ・スキル」の鍛え方を指南してくれます。

情報収集は根気のいる作業です。変化の激しい現代では、新しい情報を継続的に入手しなければなりません。毎日の忙しさのあまりついつい情報収集が怠りがちになっていませんか?情報収集は基本中の基本。でもわかっていながら、なかなか簡単には継続できないのです。

「定番」入門書になる予感

第1章でリサーチの重要性を、第2章でその方法論を述べたあと、マクロな情報の整理(第3章)、顧客の情報(第4章)、競合・自社の情報(第4章)の取得と活用方法について幅広くおさえています。後半では日常的な情報収集のやり方(第6章)、情報の取捨選択や解釈(第7章・第8章)といった具体的なノウハウにも言及しています。

約200ページの本書は、すべて見開き単位で構成されています。左ページに解説、右に図解・イラスト。この読みやすさも「忙しい営業マン」への配慮でしょう。

これだけ幅の広い情報がムック的な読みやすさで編集されているので、新人は教科書として、経験のある方はチェックリストとして、使うことができると思います。

本書が紹介してくれるリサーチ手法を現場で活かすために、この本をテキストとして社内勉強会で各自の事例を共有したり、先輩社員に講師を務めてもらってリサーチのやり方を聞いてみるといった2次活用ができるといいですね。

堀内 浩二 / NextBook

営業はリサーチが9割! 売上倍増の“情報収集”完全マニュアル

著者:松尾 順
出版:日本能率協会マネジメント 出版情報事業、2008-05-30、¥ 1,680
形態:単行本、208ページ

2008年05月21日

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企業は、「自滅」する

なぜ、優良企業であっても長期にわたって成功し続けられないのか。著者はその原因を「自滅的習慣」に求めます。

何が問題なのか。本書によれば、優良企業の多くが破綻した理由は、競合との熾烈な競争などではなかった。驚くべきことに、原因は「優良企業」自身の体内に潜伏していたのだ。それも、成功をたぐり寄せる過程で自然と身についてしまった「自滅的習慣」によって。つまり、成功が失敗を生んだわけである。(「日本語版 訳者まえがき」より)

そして7つの「自滅的習慣」を特定しています。

  1. 現実否認症――神話、定石、正統という呪縛
  2. 傲慢症――おごれる者は久しからず
  3. 慢心症――成功は失敗のもと
  4. コア・コンピタンス依存症――諸刃の剣
  5. 競合近視眼症――忍び寄る伏兵
  6. 拡大強迫観念症――右肩上がりの幻想
  7. テリトリー欲求症――コップの中の縄張り争い

優良企業が陥る、7つの自滅的習慣 - *ListFreak

これまでの企業研究の多くは、成功した企業の成功要因を分析したものでした。この「自滅」の研究は、それらの成果を否定するものではありません。著者は『エクセレント・カンパニー』や『ビジョナリー・カンパニー』の功績を認めた上で、以下のように研究の視点を定めています。

彼らは十分に納得のいく理由で、特定の企業を成功モデルとして選び出した――その企業が後に、まったく別の理由で凋落したのだ。私の目的は、かつての成功企業がそもそも「エクセレント」あるいは「ビジョナリー」と選定された理由を見直すことではない。私が知りたいのは、その後、企業に何が起こったかである。(p25)

7枚の「診断書」

第2章以下では、1つの自滅的習慣について1章を割き、それが何であるか、なぜ起きるか、どうしたら避けられるかを考察しています。そして各章の最後には、「発症のきっかけ」「主な症状」「治療法」を見開きにまとめた「診断書」が付いています。

本書の研究対象は優良かつ大きな企業です。「慢心症」などはそういった企業にとりわけ見られやすい習慣でしょう。しかし、「現実否認症」などは、組織で働いた経験の持ち主ならば誰でも、思わず「あるある!」と頷いてしまうと思います。そういう意味では、大きな優良企業にお勤めの方はもちろん、これから成功しようとがんばっている企業の方々にも、予防薬としてお勧めできます。

実際、最終章のタイトルは「予防は治療にまさる」です。個人の生活習慣病の最善の対策は、治療でなく予防。同様に、企業の「自滅的習慣」も予防すべきとして、それぞれの病気ごとに予防策を提案しています(残念ながらこの部分は薄めで、今後の研究の進展に期待というところです)。

社会人としての視点でも

企業は悪習慣によって自滅するというテーマは、個人にも援用できます。自分のスキルについての「現実否認症」や、過去の成功による「傲慢症」などなど、一個人としてどう振る舞っていくべきかを考えるうえでも有益な本でした。

堀内 浩二 / NextBook

自滅する企業 エクセレント・カンパニーを蝕む7つの習慣病

著者:ジャグディシュ・N・シース (著), スカイライト コンサルティング (翻訳)
出版:英治出版、2008-04-22、¥ 1,995
形態:単行本、384ページ

2008年05月07日

分析のためでなく、意思決定のために

「定量分析」と聞くと厳密な分析を想像する方もあるかもしれません。しかしビジネスにおける定量分析は、分からないことを出来るだけ数字に置き換えて分析しようというほどの意味合い。本書には、「エイヤ」で判断しがちな状況をどのようにモデル化し、どのように数字を作り、どのように意思決定の材料を見出していくかが分かりやすく学べるショートケースが並んでいます。

「定量」分析ですから数字は不可欠。とはいえ、数学的な操作を必要最小限に抑えて分析の肝を伝えようという著者の意図がとてもよく伝わってきました。分析手法を広く紹介する代わり、難しいものについては思い切って刈り込んでいます。例えば「ベイズの定理」については、それを説明する数式は一切ありません。何かの事象を予測したいとき、主観的にでも確率を付与してモデルを作っておけば、データを得ながら精度を高めていくことができるという説明だけがあります。実際、事業分析の現場でベイズ推定を意思決定に活用した事例などはまだ少ないと思いますので、そういう手法があって、今後普及するかもしれませんから注目ですよ、ということを知ってくれれば十分ということなのでしょう。

また16のケースが1つのシナリオ(主人公の「私」は脱サラ・帰郷してコンビニのフランチャイズ拡大に挑みます)に沿って書かれています。臨場感を保ちつつケース毎に覚えることを少なくできる、優れた方法です。

後半のいくつかのケースを除いては、実際に数字を追って分析手法を学べるだけの具体性もありますし、薄い本ながら索引も充実していて辞書的にも使えます。私を含めた多くのビジネスパーソンにとって「言葉は知っていたけれど使ったことがない」分析手法を試す、よい教本になるのではないでしょうか。

堀内 浩二 / NextBook

定量分析実践講座―ケースで学ぶ意思決定の手法

著者:福澤 英弘 (著)
出版:ファーストプレス、2007-06-01、¥ 2,520
形態:単行本、221ページ

2008年04月16日

プロセスに注目せよ

 私が本書で主張したいのは、リーダーは自分の意思決定の有効性を判断するのに結果を待つ必要はないということである。結果を待つのではなく、重大な選択をするために用いているプロセスを綿密に検討すべきなのだ。

なぜ、プロセスを綿密に検討することで意思決定の有効性が判断できるのか?『プロセスの質が高ければ、実行後の成果がプラスになる可能性も高い』からです。では質を高めるために、何が必要か?著者は、以下のように「対立」と「コンセンサス」のマネジメントであると主張します。

リーダーは批判的かつ発展的な思考のレベルを高めるために、建設的な意見の対立を助成すると同時に、決定事項を適切なタイミングで効果的に実行させるためのコンセンサスを築かなければならない。

本書の構成を以下に示しますが、実際に「対立」(Conflict)と「コンセンサス」(Consensus)のマネジメントにそれぞれ100ページ程度の紙面が割かれています。

 Part1 意思決定プロセスを導く
 Part2 意見の対立を促す
 Part3 コンセンサスを形成する
 Part4 新たなリーダーの条件

駄目押しをするならば、原著の副題も"Managing For Conflict And Consensus"です。

対立とコンセンサスのマネジメント

いかに健全な対立を誘発し、建設的に解決するか。Part2では、例えばこんな落とし穴の存在に気づかせてくれます。


 1. 反対する人を飼いならしてしまう
 2. ハブ・アンド・スポーク型で(リーダーとメンバーが1:Nで向き合う形で)対話してしまう
 3. 質問・反対の時間をなくしてしまう
 4. 閉じこもりと両極化を促してしまう
 5. 見せかけの精度を追求してしまう

コンセンサスについて、この本では以下のように述べています。

コンセンサスというのは全員一致という意味でも、まして多数意見ということでもない。意思決定を行うのがリーダーではなく、チームだという意味でもない。複数の選択肢の要点を取り入れた妥協的解決策を見つけなければならないということでもない。

「コンセンサスを得る」という言葉を、なんとなく「大多数の人が妥協できる解決策を見つける」くらいにしか定義していなかったので、この部分にはハッとさせられました。

ではコンセンサスとは何か。著者の(少々長い)定義を引用します。

コンセンサスというのは、参加者が最終決定を理解し、採択された行動方針の遂行に全力を尽くすことを誓い、その計画が全員のものであるとの意識を持ち、その実行活動において進んで他の人たちと協力しようという意思を持つことである。

本書が目指す高い理想に向かって歩むために、事例やチェックリストなど実践のためのヒントも豊富に備わっています。良書の多いこのシリーズの中でも、個人的にはかなり上位に来る本でした。

堀内 浩二 / NextBook

決断の本質 プロセス志向の意思決定マネジメント

著者:マイケル・A・ロベルト (著), スカイライトコンサルティング (翻訳)
出版:英治出版、2006-07-24、¥ 1,995
形態:単行本、352ページ

2008年04月02日

人生の王道

 著者の辻さんはベンチャーキャピタリスト。創業間もないアーリーステージの企業にも積極的に投資することと、徹底したハンズオン(自ら経営に参画すること)の姿勢で投資先企業に接することで知られています。

 その辻さんが書き留めてきたコラムを書籍化したのが本書。含蓄にあふれるショートストーリーが、以下のような章立てで99集められています。

第1章 基本は挑戦である―会社が生き続けるために必要なこと
第2章 人が価値を生む―会社が成長するために必要なこと
第3章 決断の時が来る―成功を阻む壁は、自分自身が作っている
第4章 愚直さがツキを呼び込む―清く、正しく、地道に行こう
第5章 センスを磨く―ビジネスチャンスを生かすために必要なこと

 「経営の王道」についての本ではありますが、読んでハッとするのは社長だけではありません。ベンチャー企業の経営者の意志決定は、仕事と生活、組織と個人、大義と利己、長期的な成長と短期的な利益など、ともすると複雑で困難なものになりがちです。

 そんな創業者の真横にいて彼らを叱咤激励してきた辻さんの観察と考察が詰まったこの本は、自分が人生の経営者であることを自覚しているすべての人にとって、思わず控えておきたくなる「いい言葉」にあふれています。

 以下、わたしが線を引いた箇所を紹介していきます。厳しいが、実は優しい。短いが、実は深い。そんな文章ばかりです。

ないない尽くしでスタートするベンチャー企業が成長していくプロセスは、偶然出会ったお客さまを一生のお客さまにしていく過程である。
「信用の蓄積が成長の分岐点になる」

 顧客を「獲得する」「開拓する」と言いますが、これらはそのためのツールを持ち、人を配することができる企業にのみ許されるぜいたくな行為です。スタートアップ企業にはそのような資源はありません。ではどうやって弾みを付けていくのか。それは「偶然出会ったお客さまを一生のお客さまにしていく」という謙虚な姿勢です。

自信が持てないというのは、起業家にとって必要不可欠の資質である。自信が持てないと起業ができない、という理屈自体が間違っている。ベンチャービジネスは、自信なく、恐る恐る始めていくものである。
「自信満々ほど危険なものはない」

 転機に読み返したい一節です。上の引用文に限らず、不安と付き合いつつリスクを取る、つまり行動するためのヒントには事欠きません。

結果責任を負う経営者は、何とかしようという強い気持ちを、支援を求める謙虚な姿勢に変えていくことが必要になる。
「支援を求めて「踊り場の危機」を乗り越える」

 個人では乗り越えられない壁に突き当たったときに、どうすればよいか。もとより、最初から独りでやってこられたわけではなく、たくさんの人に支えられてここまで来られたのだという「原点」を思い返すせ。自分だけで何とかしようとするな、謙虚に支援を求めろ。辻さんはそう説いています。

本としての出来の良さにも注目

 ネット書店の書影では分からない情報をひとつ。本の最後に3枚ほどの白紙が添えられています。これは、100個目の「王道」は自分で見出して書き込んで欲しいという辻さんからのメッセージ。だから99しか無かったのですね。

 装幀は長友啓典氏。同氏の手になる題字の隣に、黒田征太郎氏のイラストが踊っています。解説は銀行員出身の作家である江上剛氏が務めています。「お、凝ってるな」という印象を、外からも中からも受けた好著でした。

堀内 浩二 / NextBook

愚直に積め!―キャピタリストが語る経営の王道・99

著者:辻 俊彦 (著)
出版:東洋経済新報社、2008-01、¥ 1,680
形態:単行本、243ページ

2008年03月19日

「運命の谷」と「行き止まり」をどう見分けるか

おおざっぱに要約すると、以下のような筋書きの本です。なお、この本でいう「成功」とは、主にビジネスでの成功を指しています。

  • 成功するには、(自分がここと決めたエリアで)「世界で最高」と思われるべし。
  • 「世界で最高」になれそうもなければ、さっさとやめよう。
  • 「世界で最高」になれそうならば、やり抜こう。

セス・ゴーディンといえばマーケティングの著作で有名ですが、この本では続けるかやめるかの選択、とりわけ「やめる」という選択について論じています。例えば、よく目にする「成功するまであきらめるな」タイプのアドバイスについて。

このアドバイスにはあまり感心できない。成功した人たちの多くが、実際には、やりかけの何かを投げ出しているからだ。彼らは「何をやめるべきか?」について鮮やかに見極めをつけ、その都度、絶妙のタイミングで投げ出してきた。

「やめる」ことには、心理的な抵抗があります。人間の性質としてそうなのか、恥ずべきことだと誰かに教えられたのか定かではありませんが。あるいは、「成功するまであきらめるな」タイプのアドバイスを多く受けているために、「やめる」イコール「失敗」という感覚をぬぐえないのか。そんな(わたしのような)人にとって「ダメなら、さっさとやめなさい!」という邦題は、なかなかにインパクトがあります。

「違う」と思ったら、やめる。
「これだ!」と思ったら、どこまでも粘り抜く。
二つのうちのどちらかを、勇気を出して実行しよう。

単に「違う」「これだ!」と思ったら……というだけでなく、自分の進むべき道を見極める具体的な方法があるのか?この本を手に取られる方の興味はそこにあると思います。

結論からいえば、Yes/Noクイズのようなものでは(もちろん)決められません。ただしヒントはいろいろ書かれています。本書の最後の方には「締めくくりの問い」として、16の問いのリストがあります。

堀内 浩二 / NextBook

ダメなら、さっさとやめなさい! ~No.1になるための成功法則~

著者:セス・ゴーディン/神田昌典:解説 (著), 有賀裕子 (翻訳)
出版:マガジンハウス、2007-08-30、¥ 1,260
形態:単行本、133ページ

2008年03月05日

福祉的経済というものは存在しない

ヤマト運輸の育ての親にしてヤマト福祉財団の理事長である小倉昌男さんの書かれた本です。

小倉さんが共同作業所など障害者就労施設の施設長や職員向けに開いている経営セミナーの内容が核です。

現在障害者の方が月給1万円も稼げていない現状を改善すべく、もちろん国にも注文をつけつつ、関係者にも意識の改革を迫っています。

私財を投じて財団を作ったくらいですから福祉に対する思い入れは強く持っていらっしゃいます。それゆえに、時に厳しいともいえる指摘もあります。

 まず、福祉的経済というものは存在しません。日本にあるのは資本主義――市場経済だけです。売り手と買い手があって商売をする。これが基本です。
 障害者の施設が作ったクッキーには、「これは障害者が焼いたものです」と入っています。けれども、モノを売るときにそんな言葉は意味がありません。お涙ちょうだいで障害者のための慈善バザーでモノを売る発想から脱却できていない。

当たり前のようですが、施設などで働いていらっしゃる当事者の方には言いにくいことです。

「やってみよう」が基本スタンスの小倉さん、その真骨頂が最後の方に出てきます。経済・経営の基礎についての説明が終わったところで、まず思い切って月給を3万円に上げてしまえと提案します。

 では、その原資をどこから調達すればよいかといえば、それはまず給料を払って、それから考えればいい。とにかく実行する。一歩踏み出す勇気が必要なのです。
 経営というのは甘いものではありません。もうこれ以上は引けない、というぎりぎりのところで、道を選択しなければならないことが何回もある。それが経営です。だから私はいつもこう言ってきました。
「まず実行しなさい。そして実行しながら考えなさい。失敗したら、そのときはそのとき。その失敗を踏み台に、前に進めばいい。やればわかるし、やればできるのです。やらなければ、永遠にわからないし、永遠にできないのです」

全体にやわらかい語り口の本で、書いてあることもやさしいのですが、そのメッセージは実はハードです。福祉に興味がある方もない方も得るものがあると思います。

#この本を推薦してくださった方の言葉も、ご本人の承諾を得てここに引用しておきます。

 くろねこヤマトの創業者、小倉昌男さんが作ったヤマト福祉財団の活動を扱っています。
 「障害者の月給1万円からの脱出」という副題は私が日ごろ感じてきた意識とぴったりです。
 日本の福祉関係者の欠点、特に無意識のどこかで「してやっている」と「お金もうけはわるい」意識を鋭く突いています。

 清貧の思想は個人の自由でしょうが、それを人に押しつけて当然というのはなかなか抜けない感じがしますが、小倉さんはそこに具体的にメスを入れていて爽快です。

堀内 浩二 / NextBook

福祉を変える経営〜障害者の月給1万円からの脱出

著者:小倉 昌男 (著)
出版:日経BP社、2003-10-09、¥ 1,365
形態:単行本、224ページ

2008年02月20日

論理に裏打ちされた、アートな問題解決

前半で、仕事のプロセスについての説明があります。これがとても興味深かった。

  1. 状況把握/対象(クライアント)を問診して、現状に関する情報を得る。
  2. 視点導入/情報に、ある視点を持ち込んで並べ替え、問題の本質を突き止める。
  3. 課題設定/問題解決のために、クリアすべき課題を設定する。

これは、ロジカル・シンキングの本に書いてあるような問題解決のアプローチ(例えば以下)にとてもよく似ています。

  • 問題は何か? ― 現状の結果と望んでいる結果との違いを図に描く
  • 問題はどこにあるのか? ― 結果を引き起こしている、現状を構成する要素を図に描く
  • 問題はなぜ存在するのか? ― それぞれの要素を分析し、なぜそれが問題を引き起こすのかを明らかにする
  • 問題に対し何ができるか? ― 望んでいる結果をもたらす変更案を論理的に系統だてて書いてみる
  • 問題に対し何をすべきか? ― 最も満足のいく結果をもたらすよう変更案を統合して新しい構造を作り上げる

分析的な問題解決のプロセス - *ListFreak

そして、このプロセスに対するコメントも、よく似ています。

 プロセスとしては、実に単純です。でも、ひとつひとつに大きな意味がある。面倒だからといって、これらを飛ばして行動に移ると、本質から程遠い、的はずれな結果になってしまいます……。

論理的なほうの問題解決で曖昧になりがちなのは、三つ目の「なぜ」というところです。原因を探ろうとするとどうしても推論が入ります。因果関係を構造化しようとする手法もありますが、かなり複雑にならざるを得ません。結局、限られた時間なり資源の中でやっつけなければならないわけですから、問題解決者のセンスに頼るようなところがあります。

この本では、問題の原因を一気に掴む「視点導入」という印象的な言葉が使われています。問題の状況がしっかり把握できたら、そういう問題(群)を丸ごと解決できるような「視点」を探すということです。ここはやはりウンウンと考えるしかないようで、本に具体的なメソドロジーが書かれているわけではありません(ヒントはいろいろと散りばめられています)。

ただし「視点導入」のためには、相当な「整理」が必要でしょうから、佐藤氏が整理を強調されるのは分かりますね。この本では空間 → 情報 → 思考と三段階に分けての整理術を披露しています。

デザインとは、整理である

本書の冒頭で、過去の事例を振り返ってこのように表現しています。

僕が勝手なイメージを作り上げるのではなく、クライアントから問診のごとくヒアリングを重ね、相手の抱える課題や伝えたいことをきちんと整理することで、表現すべきかたちが必然的に見えてきたのです。

あとがきでは、デザインは「クリエイティビティあふれる整理術」であるという表現もあります。アートディレクターたる自分の仕事の根底にあるのは、ゼロから何かを創造するのではなく、相手の課題を整理することであるという、この発見に佐藤さんのブレークスルーがあったように思います。

いろいろななものを「整理」して、すっきりしたくなる本でした。

堀内 浩二 / NextBook

佐藤可士和の超整理術

著者:佐藤 可士和 (著) 出版:日本経済新聞出版社、2007-09-15、¥ 1,575 形態:単行本、224ページ

2008年02月06日

287の、それぞれ1ページ弱の文章からなる本。著者は、17世紀スペインの哲学者・修道士、著述家だそうです。

「賢く生きる」とは何か

もっともな文章もたくさんあります。たとえば最初の「自分の一番良いところを知る」。

 自分の一番良いところを知っておこう。自分の中でも秀でた才能を見出し育てれば、ほかの足りない部分を補える。

しかしこの本には、エッと思うような文章も多くあります。たとえば「最後は秘密にする」。

 人はつねに何かに秀で、何かの師でなくてはならない。自分が得た技術をうまく伝えるのが使命だ。だが、知識や技術の出どころについて教える必要はない。そうすれば、いつまでも人から尊敬され、頼りにされる。

ソースをオープンにしてもなお秀でてこそ、と思っている人にとっては肩すかしを食ったような文章ではないでしょうか。あるいは、人を動かすために「相手の急所を見つける」という文章。

急所はその人のもっとも高潔な部分にあるとはかぎらず、えてして低級な部分にある。なぜなら人間には、良い性質より悪い性質のほうが多いからだ。とにかく、相手の急所に見当をつけたら、甘言を弄してそこをくすぐるとよい。そうすれば相手は身動きがとれなくなる。

この人は本当に修道士だろうか?と思うような、策略に満ちた発想です。

となると気になるのは、著者がどういう生き方をもって「賢い」と考えているのかです。それがもっとも端的に表れている文章を探してみると、最後から2番目の「聖人であれ」に、このような文を発見しました。『いろいろ述べてきたが、簡単にいえば、聖人であれということにつきる。それがすべてだ』。 では聖人とは?聖人とは「美徳」を備えた人であり、美徳についてはこのように書かれています。

美徳とは一連のあらゆる完璧さを指し、あらゆる幸福の中心である。美徳のおかげで人は思慮深く、慎重で、機敏で、用心深く、賢明になる。また、勇敢で、思いやりがあり、信頼でき、幸福で、人望があり、正直にもなる。

「完璧さ」については、「最高の自分を目指す」という文章にも、いい文がありました。とても高いハードルですが、「目指す」べき目標としてはよい物差しではないでしょうか。

人間はみな完璧に生まれついているわけではない。(略)人間の完成度は、趣味が高尚なこと、思考の明晰さ、判断の成熟度、意志の固さでわかる。

堀内 浩二 / NextBook

賢く生きる智恵

著者:バルタザール・グラシアン (著), 野田 恭子 (翻訳)
出版:イースト・プレス、2007-08、¥ 1,365
形態:単行本、322ページ

2008年01月16日

部下への不満
1. 仕事に対して消極的
2. 自分で物事を判断できない
3. 自分の意見を主張しない
4. 指示したことに従わない
5. 上下関係をわきまえない

直属の上司への不満
1. ビジョンがあいまい
2. 人間的に尊敬できない
3. 仕事の成果を正しく評価してくれない
4. 仕事ができない
5. 重要な仕事をまかせてくれない

(「まえがき」より。「日経BPコンサルティング調べ、2005年」として引用)

「あるある(苦笑)」、ですよね?

著者は、こういったコミュニケーション不全の主な原因を、部下が「問題は自分以外のところにある」と考える「依存者」であるところに求めています。そして「依存者」を、自分を知り周囲を動かす「主体者」に育てるための方法を提案しています。

「お、良さそうな本だな」と感じたあなた。「部下に問題がある」と考えること自体が、「依存者」の発想です。部下と一緒に変わっていきましょう。

著者 内田 和俊はビジネスコーチにして研修トレーナー。コーチング理論などを活用しながらそれに寄りかからず、自分の経験を踏まえて分かりやすく話をまとめています。

例えばペーシング(相手に合わせる)というコミュニケーションスキルを紹介するページでは、以下のような価値観のズレがあるとペーシングが難しいとのこと。引用元がないので著者のオリジナルだと思うのですが、端的にまとまっています。

  • 「結果重視」と「プロセス重視」
  • 「数字重視」と「人間関係重視」
  • 「直観型」と「熟考型」

話が合わない人にありがちな価値観のズレ - *ListFreak

また、豊富に出てくる事例も、どれも身近で納得度を高めてくれます。

全体に、コミュニケーション改善のTipsが3〜5ページくらいの単位で並んでいる構成です。特に後半では、『「依存者」から「主体者」にステージアップするための10の「あり方」』という形で芯を通しています。

  1. ゴールを決める
    「考える」より先に「決める」
  2. 正直
    自分に正直な目標ならストレスやプレッシャーにならない
  3. 伝える
    自分の夢や目標などを“言葉で”まわりの人間に伝える
  4. リスペクト
    人を尊重し、基本を徹底する
  5. 冒険
    背伸びした目標に挑戦し、ブレイクスルーする
  6. 参加100パーセント
    「いま、ここ」に全力集中する
  7. 責任
    変化に柔軟に対応する能力をもつ
  8. 約束を守る
    「自分との約束」を守ることで自己価値を高める
  9. リレーションシップ
    良好な人間関係とものごとのバランスを保つ
  10. 目標達成の強い意志
    「やる」と「決める」ことがエネルギーを生み出す

「依存者」から「主体者」にステージアップするための10の「あり方」 - *ListFreak

堀内 浩二 / NextBook

CEOアカデミー―最高の「依存する人」を「変化を起こす人」にどう育てるか

著者:内田 和俊 (著)
出版:日本実業出版、2006-08-25、¥ 1,470
形態:単行本(ソフトカバー)、256ページ

2008年01月02日

21人の米国企業のCEOがそれぞれリーダーシップ、取締役会との関係、経営戦略の実行、社外との関係構築といったテーマで行った講演をまとめたもの。その名もCEOアカデミーという組織が主催しています。

「善」か「善」かの選択

個人の意志決定という観点から面白かったのは、ジョセフ・L. バダラッコ教授の「ビジネスでの倫理的ジレンマ――どちらの選択も正しいとき」でした。

 生か死かの問題に答えをだせとせまられる人はそういないが、「善」対「善」の問題を突きつけられることは誰にもままある。日常生活にもこうした例があるだろう。処理しなければならない仕事が山ほどあるのに、家族とも一緒に過ごしてやりたい。子供のサッカーの試合もあれば、入院している友人の見舞いにも行かなければならない。これは善か悪かの選択ではない。はたすべき、、二つの義務のうち、どちらをとるかという問題だ。
 ビジネスでそのような場面にぶつかったら、どうすればいいだろうか。

このような問題に対し、バダラッコ教授は倫理的判断のための立脚点として「四つの問い」を挙げています。

  • 最大多数の最大善―道徳上のジレンマに直面したとして、それにかかわる全員にとって最も益が多く、最も害が少ないのはどの選択肢だろうか。
  • 基本的権利の問題―判断の結果に影響される個人ないしグループで、誰またはいずれの基本的権利を尊重すべきだろうか。
  • 人格者はどうするか―「善」対「善」のどちらをとるかを決めなければならないとき、自分が越えたくない一線、あるいはわれわれが集団として越えてはならない一線はどこだろうか。
  • 世間に通用するのは何か―あなたが組織の責任者ならかならず決断の場面に直面し、そのときには個人としての道徳的な選択(略)は組織への責任と両立しない。倫理にかなうと思われた行動であっても、うまくいかなければ、その行動は現実として価値がない。

さらに、上記のような問いを考えるための指針となるテストを挙げています。少々言い換えればこんな感じです。

ある行動の結果が、

  • 大手メディア(新聞やニュースサイト)のトップに掲載されるとしたら?
  • その行動によって運命を左右されるのが自分の子供だったとしたら?
  • 自分の死後の評価が、その行動の結果で定まるとしたら?

堀内 浩二 / NextBook

CEOアカデミー―最高の経営者たちが教える企業経営の極意

著者:デニス・C. ケアリー (著), マリー・キャロライン・フォン ヴァイクス (著), Dennis C. Carey (原著), Marie‐Caroline Von Weichs (原著), 鈴木 主税 (翻訳), 桃井 緑美子 (翻訳)
出版:日本経済新聞社、2004-08、¥ 2,310
形態:単行本、361ページ

2007年12月19日

起業物語のすべてがある

初期の成功と、成功に対する疑問。
旅館にこもっての自問自答。
天啓。
義憤をバネにした成長。
挫折。あたたかい支援の言葉。
再生。寄せられる、思いもかけない支持。
成長した、高い視点から見据える未来。

とてもパーソナルな物語なのに、あらゆる要素を含んだ、起業物語の典型のようにも感じます。それだけ様々な体験をなさったということでしょう。

率直の魅力

語り口は、終始率直。例えば、学生ベンチャーだった著者が「社会起業家」という職業を発見するくだり。社会起業家になると宣言してから、何をするのかと問われてハッとします。

たしかに僕の発見は、行く先がどの方向かは示してくれていたが、どの道を行くのかまでは教えてくれてはいなかった。
 そうだ、自分のテーマがなくてはいけない。(p61)

何か具体的な問題意識があったのではなく、まず社会起業家になることを決めた。こんな(本末転倒で格好悪い)こと、なかなか書けません。

そういった率直さが前面に出ているせいか、とても「入りやすい」本です。午前中の最初の休憩のときにふとこの本を手に取り、そのままソファに座り込んで読み通してしまいました。

社会起業家の雰囲気

この本にも出てくるNPO法人ETICの主催するビジネスプランコンテストで何回か応募者のプランを磨くお手伝いをさせていただいています。限られた接点ではありますが、そういった機会を通じて触れる「事業で社会を変えよう」という心意気にあふれた人たちの雰囲気を、よく伝えてくれる本です。

小さくとも、事業としてきちんと回すこと。明確な社会性を武器にプロモーションをすること。国がパクっても怒らないこと。著者のそういった体験を読んだ後では、『「社会を変える」を仕事にする』も誇張でないと思えます。そのあたりのメカニズムについて語っている部分を引用します。

 僕は確信している。なぜなら、僕のような門外漢のド素人によって東京の下町で始まったモデルが、政策化され、似たような事業が全国に広がっていったのだ。自らの街を変える、それが世の中を変えることにつながっていったのだ。だとしたら「社会を変える」ことは絵空事ではないはずだ。一人ひとりが、自らの街を変えるために、アクションを起こせばいいだけなのだ。(p227)

相当なものだったはずの苦労を感じさせない、明るい文体。特大フォントを織り交ぜた、読みやすさへの配慮。二十歳代後半の著者と同年代の読者を特に揺り動かすための工夫だと推測します。既に触れた物語としての充実ぶりと併せて考えると、編集にもかなり手が掛かっているのでは。

堀内 浩二 / NextBook

「社会を変える」を仕事にする―社会起業家という生き方

著者:駒崎弘樹 (著)
出版:英治出版、2007-11-06、¥ 1,470
形態:単行本(ソフトカバー)、256ページ

2007年12月05日

「時」と「兆し」の専門書

易経は英語訳では「Book of changes」、直訳すると「変化の書」です。東西の数多くの古典の中にあって易経の一番の特徴といえば、「時」と「兆し」の専門書であるという点です。(p33)

現代でも、未来を知るためにシンクタンクなどがやっきになって「兆し」をスキャンしています。四書五経の中で最古の書物である『易経』が、その「時」と「兆し」の専門書だった。第一章「易経の成り立ち」がこのように魅力的なので、一気に読み進んでしまいました。

ではどのように変化を知るのか。占い……では、必ずしもないようです。

「君子占わず」とは、「君子は占いなどはしてはいけない」という意味ではありません。「君子たらんと志す者は、易経を読んで変易、不易、易簡という三つのエッセンスを知れば、占わなくても出処進退がわかる」という意味です。(p31)

「変易、不易、易簡」を易の三義というそうです。簡単にまとめるとこんな感じ。
「変易」とは、すべてのものは変わるということ。
「不易」とは、その変わり方には法則があるということ。
「易簡」とは、その法則は観察によって分かるということ。

非常に意欲的というか挑戦的な発想です。易経とは、そういった人生や世の中のリズムとでもいうべきものが、それぞれ6つのシーン(爻)からなる64のストーリー(卦)にまとめられた物語の体系であると理解しました。

編集の勝利

この本は、その六十四卦の中の最初の卦である「乾為天」−これは龍の物語になっています−の解説に、全九章のうち六章が費やされています。こうやって思い切って絞り込んで解説してもらうことで、易経に込められている知恵の深さを窺い知ることができる。これは優れた編集ですね。

著者は易経の研究家。『漢籍の特別な素養があるわけではなく、ただただ易経が好きなだけの、ひとりの「愛読者×研究者」として、広大なる「易経の世界」の一端をお伝えしたにすぎません(まえがき)』とありますが、ビジネスや生活での事例をふんだんに盛り込んで、分かりやすく解説してくれています。

ネットで易経を検索して仕入れた豆知識を一つ。「韋編三絶」という諺がありますね。孔子が、とじひもが三回切れるほど本を熟読したという故事から来た諺です。孔子がそれほど繰りかえし読んだ本が、ほかならぬ『易経』。もうすこし勉強してみたくなりました。

堀内 浩二 / NextBook

人生に生かす易経

著者:竹村 亞希子 (著)
出版:致知出版社、2007-11、¥ 1,680
形態:単行本、289ページ

2007年11月21日

ISL(Institute for Strategic Leadership)代表である野田智義さんと神戸大学教授である金井壽宏さんの往復書簡のような体裁のリーダーシップ論。

往復書簡といっても、正面から向き合った「対話」ではありません。同じ方向を向き交互に独白を重ねながら時々視線を交わすという感じです。

どちらかといえば、野田さんが持論を披露して金井さんが合いの手を入れるようなバランスになっています。金井さんの書かれた「あとがき」によれば、そのように意図された構成のようですね。

 この共著では、リーダーシップを研究するのではなく、実践している野田さんの視点を何よりも最優先した。もちろん、私も長年リーダーシップについて研究してきた人間として、できる限り野田さんの論点をフォローする知見はちりばめさせてもらった。(あとがき)

この本で印象的だったのは、「アクティブ・ノンアクション」という言葉。

毎日を多忙に過ごしているにもかかわらず、本当に必要で意義があり、真の充足感をもたらしてくれる何かについては、まったく達成できていない状態。行動しているように見えて(アクティブ)、実はなんの行動もしていない(ノンアクション)という危険な落とし穴だ。

こう言われると、誰でもヒヤリとします。というのは、この文章には少しずるい仕掛けがあるからです。

「【本当に】必要で意義があり、【真の】充足感をもたらしてくれる何か」を達成しているかと聞かれて、Yesと迷わず答えられる人はいないでしょう。

では、どこに【本当】の意義や【真の】充足感を求めるべきなのか。「リーダーシップの旅」とは、いわゆる「自分探しの旅」から始まるのか。

これはYesでありNoでもあります。何が自分にとって【本当】で【真】なのかを見極める内省をするべきという意味においてはYes。どこかよそから【本当】や【真】を教えてもらおうという意味においてはNoです。

 セネカが語る「怠惰な多忙」、スマントラが注目する「アクティブ・ノンアクション」の意味はもうお分かりだろう。現在を忙しく生きてはいるが、今やっていることの意味を探すような来し方の内省をせずに、過ぎ去る今日を集中力なく気が散るままにカラ元気で生きるのは、よしたほうがいいということだ。(p171)

著者たちの経験と学識とがない交ぜになった旅行記として、楽しく読みました。

堀内 浩二 / NextBook

リーダーシップの旅 見えないものを見る

著者:野田 智義 (著), 金井 壽宏 (著)
出版:光文社、2007-02-16、¥ 819
形態:新書、297ページ

2007年11月07日

原著の出版から10年を経て、2007年に新装日本語版として出版された本。さすがに事例は古いものの、たしかに現在日本で読むにふさわしい内容です。

なぜ、いま「個を活かす企業」なのか

個を活かさない企業よりは活かす企業のほうがなんとなく良さそうです。が、本当にそうなのか。なぜ以前よりも今のほうがそうなのか。著者はそうである根拠として、最も貴重な経営資源が金融資産から知識へと移っている事実を指摘しています。

 世界中で多くの企業を巻き込んだ変革を推進する最も強大な力とは、経営資源が比較的不足するなかで起こっているシフトである。私たちが目の当たりにしてきたのは、知識が資本に代わって企業の最も貴重な戦略資源になるに従って、金融資産を分配し管理するための戦略、組織構造、システムが、情報や知識を開発し、それを活用するのに適した企業モデルに変わっていったことだ。(p251、太字は引用者による)

3Sを越えて3Pへ

では、「個を活かす企業」への変革には、何が必要なのか。本書は3Sを越えて3Pへの変革が必要であるとしています。3SとはStrategy(戦略)− Structure(組織構造)−System(システム)、3PとはPurpose(目的)−Process(プロセス)−People(ヒト)の略。

「3Sを越えて3Pへ」とはどういうことか、本書から象徴的な文章を選り抜いてみました。

●戦略を越えて目的へ

戦略は、広範な組織としての目的に組み入れられて初めて、強く長く感情移入できる対象となるのである。(p368)

●組織構造を越えてプロセスへ

「戦略−組織構造−システム」の経営教義は、経営資源を配分し、責任を割り振り、業務が効率的に遂行されるよう管理することに重点を置くものであり、今日でもマネジャーのほとんどがいまだに依存している。「目的−プロセス−ヒト」の経営教義は、組織の主要な業務は社員の行動を定め、彼らがイニシアチブをとり、協力し、学べるような環境をつくり出すことだという前提に立っている。(p375)

●システムを越えてヒトへ

この変化が意味するのは、従来のように方向性を決めるためのプランニング・システムに依存するのではなく、主要な人材を特定の仕事に配置して、企業の進化を図ろうとすることだ。(p377)

本書は豊富な事例を挙げて「個を活かす企業」の条件を洗い出し、企業が自己変革を続けるための方法論をまとめようと試みています。

「個を活かす企業」にあっては、企業の自己変革とは社員一人ひとりの自己変革にほかなりません。エキサイティングではありますが不安定さは増すでしょう。これから個人に何が求められるか、何を磨くべきかを考えるうえで、読んでおきたい一冊。

堀内 浩二 / NextBook

【新装版】個を活かす企業

著者:クリストファー A. バートレット (著), スマントラ・ゴシャール (著), グロービス経営大学院 (翻訳)
出版:ダイヤモンド社、2007-08-31、¥ 2,520
形態:単行本、405ページ

2007年10月17日

アメリカの大学の、卒業式における講演(Commencement speech)を24集めた本。通常は大学のOBが話すようです。本書に収録されたスーザン・ソンタグのスピーチによれば、「この季節になくてはならないマイナーな[b]文学[/b]の一形式」(太字は引用者による)とのこと。2005年にはアップルCEOのスティーブ・ジョブズが、スタンフォード大学で素晴らしいスピーチを披露し、話題を集めました。

1998年に出版された本書が2007年に翻訳・出版されたのは、このCommencement speechへの注目と無縁ではないでしょう。IT業界ではジョブズ氏同様に尊敬を集めるティム・オライリーのスピーチ(2006年のカリフォルニア大学バークレー校の卒業式)を追加しているのも、それを裏書きしているように思えます。

スピーカーは、日本でも知られた著名人ばかり(下にスピーカーの一覧を目次から引用しておきます)。そして、とてもよく練られたスピーチばかり。要約は難しいので、ここに掲載されたスピーチに共通している点を抽出してみます。

まず、個人的な経験を語っていること。たとえば女優のジョディ・フォスター。

実は、私、ここで学んだことを何一つおぼえていないのです。正確な日付、あるいは引用文、難解な参考書、どれ一つおぼえていません。ただ、これはおぼえています。大勢の友だちと腕を組んで、声を限りに歌ったことを。すぐそこの通り、ハイストリートをよろよろ歩きながら、笑って、歌って、忠誠を誓ったことも。本当に触発され、夢中にさせられたものへの忠誠を。私は今も、その特別の旗に対する忠誠を変えていません。あの晩のことはほかに何も思い出せないのですが。

そして、主張があること。さすがにプロパガンダめいたスピーチはありませんが、あたりさわりのないスピーチよりは、個人的な信条をはっきりと述べているスピーチが記憶に残りました。たとえば、文筆家のラルフ・ウォルド・エマーソンが1838年に行ったスピーチ。舞台がハーバード神学校であることに注目。

この観点からすると、我々は歴史的なキリスト教の欠点を意識せざるをえません。歴史的なキリスト教は、あらゆる試みを布教へつなげるという過ちに陥りました。我々にとって、それは魂の教義ではなく、人間、実在、儀式の誇張した表現としか見えませんし、実際、長年、そのとおりだったのです。イエスというペルソナについての有害な誇張にこだわってきたし、今もこだわっているのです。

そしてもう一つ、レトリックに気を配っていること。たとえば元軍人にして政治家のコリン・パウエル。

 私たちが卒業したのは、ネルソン・マンデラが南アフリカに対する反逆で裁判にかけられた時代でした。一九六四年には、彼は終身刑を宣告されて投獄されています。
 皆さんが卒業されるのは、ネルソン・マンデラが自由人になった時代です!彼とデクラーク大統領、その他の進んだ指導者たちは、一致協力して、アパルトヘイトを完全に打ち壊そうとしています。

パウエル氏が卒業した1958年とスピーチが行われた1992年とが、「私たちが卒業したのは、〜時代でした」「皆さんが卒業されるのは、〜時代です」という対句の繰り返し(6回)、語られます。自分たちが飛び込む社会はそのような変化の果てにあり、これからも同じ(あるいはそれ以上の)勢いで変化していくだろうということが、臨場感を持って実感できます。

大学卒業など遠い昔の話だという諸兄にとっても、例えば転機を迎えたときに読めば、勇気が湧いてくる内容です。また自分が講演をする際の参考にもなります。母校で講演する機会はないとしても、仮にするとしたら後輩に何を語れるかと考えてみるだけで、自分の生き方を見直すきっかけになるのでは。

堀内 浩二 / NextBook

グラデュエーション デイ―未来を変える24のメッセージ

著者:アンドリュー・アルバネーゼ (著), 佐々田 雅子 (翻訳)
出版:オデッセイ コミュニケーションズ、2007-04-20、¥ 1,890
形態:単行本、301ページ

2007年10月03日

「社員の情熱」はどこから生まれるのか。
それを育て、維持するためにはどうしたらいいのか。
骨太なテーマをうまくまとめています。

価値ある絞り込み

「うまくまとめている」とは、例えばこのくだり。

 人が仕事をするうえでの三つのゴールを、我々はここに宣言する。それは、公平感、達成感、連帯感だ。これを仕事のモチベーションにおける三要素理論として提唱し、次の主張を行う。

  • この三つは、労働者の欲求を代表するものである。
  • 労働者にとって、この三つを超えるゴールは存在しない。
  • この三つは、我々の知る限り普遍的なものである。時代や文化、少なくとも経済的な社会における文化に左右されるものではない。
  • これらを理解し、そのための経営方針・慣行を確立することで、社員の高い士気と企業の高業績を実現できる。この三つの欲求と企業側のニーズに衝突が起きることはない。

そして、企業がこの三つの欲求に答えて社内に「情熱」を育てるためには、「パートナーシップ文化」の醸成が必要であると主張しています。

読み手によって異論・反論はあると思います。著者も、もしかしたら多少の例外の存在を認めているかもしれません。しかし、このように思い切って「やる気の構造」を定義したことで、著者のメッセージはとても明快になっています。

主張を支える論理が明快なので、本の章立ても下のように分かりやすくなっています。

社員とのパートナーシップが情熱に溢れた社員を育てる
├社員の情熱が企業を動かす
├その情熱はどこから生まれるのか?
│├公平感を示す
││├雇用保障
││├報酬
││└敬意
│├達成感を与える
││├ビジョン
││├権限委譲
││├やりがい
││└フィードバック
│└連帯感を強める
│ └チームワーク
├パートナーシップを確立する
└成功への9ステップ

人事・組織論のバックグラウンドがそれほどなくても読み通せる平明さも備えています。また巻末にはパートナーシップ文化を導入する前に行うアンケート票が付けられています。チームあるいはプロジェクト単位で、自主的な勉強会ネタとして使ってみるのも面白いかもしれませんね。

堀内 浩二 / NextBook

熱狂する社員 企業競争力を決定するモチベーションの3要素

著者:デビッド・シロタ (著), スカイライトコンサルティング (翻訳)
出版:英治出版、2006-02-02、¥ 1,995
形態:単行本、320ページ

2007年09月19日

世界が豊かになったメカニズムとは

ある調査によれば、『1820年以前の世界には経済成長は存在せず、それ以降にだけ持続的で強力な成長が見られる』。この調査に目を通した著者が、近代世界における急激な経済成長のメカニズムを解き明かそうと試みたのが本書です。

構成については、著者による端的なまとめを引用します。

 本書は必然的に「なぜ」「どのようにして」「これからどうなる」という三つの部分に分かれる。「なぜ」を扱う第1部では、経済成長をもたらす最も根本的な諸要素を特定しようと試みている。第2部では、それらの要素が各国で、どう展開していったかを検討する。第3部では、この二世紀間の爆発的な経済成長が、どのような社会的、政治的、軍事的影響をもたらしたかを論じている。(p3)

全体の半分を占める第1部では、前近代から世界の経済史を総括し、近代経済成長の要素がわずか4つに集約できることを示しています。すなわち
・私有財産権(成長のドライバー)
・科学的合理主義(成長の知的枠組み)
・資本市場(成長の資金源)
・迅速で効率的な通信・輸送手段(成長の物質的インフラ)
の4つ(カッコ内は引用者による)。

第2部ではこの枠組みに則り、国々を大きく3つに分けて、成長(あるいは停滞)のメカニズムを検証していきます。早期に成長路線に入った勝ち組(オランダ、イギリス、アメリカ)、キャッチアップ組(スペイン、フランス、日本)、そしてこれらの国々のようには成長できなかったイスラム世界とラテンアメリカ世界の3つです。

個人的には第2部からが俄然面白くなりました。例えば日本の経済発展の歴史と展望をわずか15ページほどにまとめているのですが、これが実に分かりやすい。例えば大化の改新とは何だったのか。

大化の改新によって、すべての土地は国有とされ、貴族や戦士身分の者には給与が支払われることになった。一〇〇〇年後になって、農民に土地所有権を(引用者注:原文では「の」)ほとんど認めないという、この制度が、日本の支配階級に破滅をもたらすこととなる。(p316)

知的誠実さとは何か

これだけ広範なテーマを扱いながら、できるだけ定量的に、かつ分かりやすさを損ねずに論を進めるのは並大抵の知性ではありません。訳者の徳川家広氏は、訳者あとがきで『訳し終えて強く感じるのは、著者バーンスタインの知的誠実さだ。』と書いています。

これに関連し、著者本人の考察ではありませんが、ぜひとも書き留めておきたいと思った個人的な発見を一つ。それは、相関関係から因果関係を読み解く方法。
世界価値意識調査(WVS)によれば、「生存/自己表現」(大まかにいって、『個人がマズローの欲望ピラミッドにおいて、底辺からどこまで上昇したか』)の高さ、つまり国民の幸福度と、民主的な政治制度の強さには強い正の相関関係があるそうです。往々にして相関関係を見出すのは容易ですが、メカニズムを考える上では、それらに因果関係があるか否かを検証する必要があります。

ここで本当に重要なのは、ニワトリが先か卵が先か、ということだろう。民主主義が自己表現の度合の増加をもたらすというのも、自己表現の度合の増加が民主主義をもたらすというのも、同じくらいありそうなことではないか。(p367)

多くの場合、このニワタマの関係を解き明かすのが難しい。わたしは、論理的に妥当なシナリオが立てられるか、第三第四の因子を加えて構造化し、時間的な前後関係が見出せないかどうかというアプローチで考えることが多い(他のやり方を知らない)のですが、ここでは面白い方法で因果関係を推測していました。先の引用部分の続きを引用します:

 幸い、イングルハートとヴェルツェルは「時間差クロス相関比較」という統計手法を用いて、二つの変数の間の因果関係を特定した。具体的には、一九九五年の「生存/自己表現」と二〇〇〇年の民主主義の間の相関のほうが、二〇〇〇年の「生存/自己表現」と一九九五年の民主主義の間の相関よりもずっと高い―― 言葉を変えれば、現在の民主主義は、それより前の「生存/自己表現」の高得点との関係が強く、これに対して現在の「生存/自己表現」の高得点と、それより前の民主主義との関係は、それよりずっと弱いということを発見したのである。先に来るもののほうが原因だろうから、「生存/自己表現」の高得点が、民主主義の強さをもたらす、と考えられる。

(参考) World Values Survey(世界価値意識調査)
Efficient Frontier(著者のWebサイト)

堀内 浩二 / NextBook

「豊かさ」の誕生―成長と発展の文明史

著者:ウィリアム バーンスタイン (著), William J. Bernstein (原著), 徳川 家広 (翻訳)
出版:日本経済新聞社、2006-08、¥ 3,360
形態:単行本、475ページ

2007年09月05日

中小企業の社長向けに書かれた経営アドバイス集。著者は自ら経営再建の実績を持ち、経営指導の経験も豊富。

利益の維持、収益源の開拓、社内文化、報酬、利益の管理、そして展望。
要約していえば、これが社長が気にすべき6つの分野であり、足りないところを補っていけば必ず業績は伸びるというのが基本的なメッセージです。この6つの順序にも、企業再建の経験が生かされていると感じます。

経営のフレームワークのようなお勉強っぽいところがなく、実務的に書かれているところも、おそらく経営者には受けがよいのではないでしょうか。例えば収益源の開拓についてはアンゾフのマトリックスというフレームワークが知られていますが、著者は事実上同じことを

 中小企業は新しい収益源を求めてどのような分野に進んだらよいだろうか。  いろいろな意見があるだろうが、私には次の三つが考えられる。
1. 現在の市場にむけ、新たな収益商品を開発する
2. 現在の主力商品を、新しい市場に売り込む
3. 新しい商品を開発して、新しい市場に売り込む
(p97)

と書いた上で、自らの経験に照らしてアドバイスしています。

職務定義や営業報告書といった書式のサンプルを含め、事例が豊富で具体的です。とりわけ気に入ったのが、「長期事業構想書」という書類。これは社長が自ら5年程度のスパンで、事業(商品)別に方針と収益見通しのイメージを書いておくというものです。

この構想書は客観情勢の変化と社長のビジョンの発展によって、たえず前向きに修正されなければならない」とある。ここが非常に優れたところである。社長の未来ビジョンは常に発展していくものであり、二年たち三年たてば変わるのが当たり前だ。また会社を取り巻く環境も常に変動しているから、年度の計画と実績をチェックしながら、一度つくった構想書にさらに修正を加えていくのである。(p397)

経営者向けという位置づけのせいか書籍としてはかなり値段が高いのですが、得るもの大でした。最後に、まえがきからその「6つの仕事」をご紹介します。

  • 絶対赤字を出さない経営
  • 成長するために新たな収益源を創り出す仕事
  • 社長と社員の心をひとつに合わせる仕事
  • 社員の努力が実るような賃金決定
  • 利益目標を確実に達成させる部門別収益管理
  • 経営の長期展望と将来進むべき方向を決める仕事

社長として断固なすべき6つの仕事 - *ListFreak

koji / NextBook

社長として断固なすべき6つの仕事

著者:田中 久夫
出版:日本経営合理化協会、2005-01-25、¥ 10,290
形態:単行本、475ページ

2007年08月15日

本書では、勝間さん自身が学生時代に会計士の試験に合格されてから、社会人になっても勉強し続けてきた、その実践方法について、具体的なツールから各分野の勉強法までをかなり詳細に説明しています。

この本が類書と比べてユニークなのが、勝間さんの「勉強ができない、続かないのは意志の問題ではない。仕組みの問題」という姿勢です。つまり、勉強を続ける仕組みを知り、それを実践していきさえすれば、誰でも勉強を継続でき、結果を残すことができるということです。

日頃から比較的本を読んだりしている人には「そんなの自分には関係ない」と思うかもしれませんが、仕事をやっている限り、誰にでも「やりたくないけど、やらなくてはいけない勉強」をする羽目になるはずです。そういう時に、この本で紹介されている数々の具体的な方法は役に立つと思いますので、一度目を通してみることをお薦めします。

最後に、本書で特に強調はされていなかったのですが、印象に残っている部分について少し。

本書の最後の方で「これからは卒業大学のブランドだけでは通用しない」という内容があるのですが、そこに以下のくだりがありました。

それらの能力(短時間の問題解決能力や事務処理能力のこと)は、ITにどんどん置き換わってきているからです。私の友人のことばで、名言だと思ったのが、「勝間さん、世の中の定型作業は、だいたい、ワードとエクセルとアクセスでできるんですよ」ということばです。

現在自分たちがやっている「仕事」が仕事でなくなってしまう日は恐らくそう遠くはありません。

10年後、いや下手をすると5年後、若者たちに「昔はGoogleで検索して、その結果をまとめてレポートとして提出するだけで付加価値があったんだよ」と話して、若者が笑っているという光景が見られるかもしれません。

そういう時代に突入していく中、自分は将来何をやりたくて、今何をやらなければいけないのか、そういうことを考え、日々勉強していくためのきっかけとして、本書はお薦めできる一冊と言えそうです。

arai / NextBook

無理なく続けられる 年収10倍アップ勉強法

著者:勝間 和代
出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン、2007-04-05、¥ 1,575
形態:単行本(ソフトカバー)、223ページ

2007年08月01日

「リーダーシップがある」という言葉は、「リーダーとしての資質や力量がそなわっている」という意味です。しかし同じ意味で「メンバーシップがある」という言葉は使われません。単に「メンバーであること」「会員権」という意味しか持っていません。辞書を引く限り、事情は日本語でも英語でも同じです。

経営学には組織行動(organizational behavior)という分野がありますが、もっぱら個人のモチベーションやリーダーシップに関する事柄が研究の中心のようです。

本書が注目しているのは、まさに「リーダーシップ」に対応する意味での「メンバーシップ」。チームの各メンバーがどうやって「チームとしての」成果を高めるか、その技術について様々なハックを紹介しています。

 本書で一番の要点となるハックは、スケジュール、作業記録、タスクリストという、仕事の進捗に関わる情報を、可能な限りメンバーと共有してしまうことにあります。(p14)

1 日の作業スケジュールや記録を共有するなんて、気詰まりではないか?面倒ではないか?と思いますよね。実際そういう部分はありますし、うまくやらないとそうなりがち。しかし「うまくやる」ことで圧倒的なメリットが出てくる(サブタイトルは「仕事のパフォーマンスを3倍に上げる」)し、圧倒的なメリットが実感できれば楽しくなってくる。その好循環を生みだすための細かい工夫が数多く出てきます。

著者は大橋悦夫さんと佐々木正悟さんのコンビ。前作『スピードハックス』と同様、今回もこの本の作成過程そのものが実証実験になっています。

なるほど!と思ったハックから一つだけ紹介すると、例えば「ミーティングでは予定を表明するのではなく実績を報告し合う」というハック。

 守ることができないような「予定の表明」をするよりも、すでに結果が出ている実績を「報告」するほうが心理的にも楽です(略)。
 そもそも仕事の目的は成果を出すことです。予定を守ることはそのための手段にすぎないのです。
(p54)

チームワークを加速する便利なツールの紹介も満載。これからのワークスタイルのあり方を示唆してくれます。

堀内 浩二 / NextBook

チームハックス 仕事のパフォーマンスを3倍に上げる技術

著者:大橋悦夫/佐々木正悟 (著)
出版:日本実業出版社、2007-07-26、¥ 1,575
形態:単行本(ソフトカバー)、ページ